万年筆から教えられた文字を書く以上に大切な気持ち 年々失われつつある万年筆を使うという習慣。初めて万年筆に触れたことで営業マンが得たこととは…。

万年筆を使うということ

心を込めて文字を書くことも、一つの仕事

都内の広告代理店に勤務し日夜外回りに励む細野さんは、今年で社会人6年目。社会人生活や仕事内容にも慣れた細野さんが次に考えているのは、お客様への心を込めたサービス。

契約書一つでも、「お客様へ直接お渡しするものだから」と、署名部分には万年筆を使い親切丁寧に心を込めて作成している。

万年筆を使い始めたきっかけとは?

始まりは、上司との会話からだった。「仕事のできる人間は、良い道具を上手に使う」と言われた細野さん。日頃から同様のことを考えていたこともあってか、文具店で筆記具を眺めていたときに、初めて万年筆を目にしたという。

「ボールペンでも良かったのですが」と語る細野さんだが、万年筆の美しさに惚れ、気がついたときには万年筆を購入していた。

使えば使うほど手に馴染む、不思議な使い心地

万年筆を購入する以前はボールペンなどの筆記具を使用していた細野さん。万年筆を使用し始めた頃は、今までとは違った使い心地や慣れない使用感に多少戸惑うこともあり、作業が遅れることもしばしばあった。

しかし使い続けることで、より一層使いやすくなるのが万年筆。徐々に手に馴染み、今では仕事を行う上で欠かせないモノになっていったのだという。

万年筆から得た、かけがえのないもの

お客様との繋がり。そしてモノを大切に想う気持ち

細野さんが万年筆から得たものは多い。「筆記具一つをこれだけ大切にしたのは初めて」と語るように、モノを大切にする気持ちを持つようになった。「正直なことを言えばインキの交換やメンテナンスなどが大変ということもあります。

でも、使い慣れた万年筆のインキを入れ替えるときには、餌をあげているかのような気持ちになるんです」。また、営業先でカバンから取り出した万年筆からお客様との会話が生まれたこともあったという。

万年筆が生み出す、文字を書く心構え

万年筆には、他の筆記具と違った不思議な力がある。精巧に造られたペン先を眺めていると、文字を丁寧に書かねばならないという気持ちになるのだと細野さんは語る。

「今までよりも、文字を丁寧に書こうという気持ちを持つことができました」という言葉どおり、細野さんの文字は万年筆で書いたものと、その他の筆記具で書いたものとでは全く違う雰囲気を醸し出している。

文字を書くことで、心理状態を把握する

細野さんの仕事は日々忙しく、休日返上ということも少なくない。そんな状態のときに万年筆で文字を書くと、文字に心理状態を現れるのだという。「万年筆で書いた文字には、自分の心理状態が映し出されていると思うんです。

なので、文字を見ることで、常に自分を冷静に保つことができるようになりました」。常に落ち着きを持たねばと意識している細野さんにとって、今や万年筆は欠かせないものとなっている。

 “書く”というこだわり

契約時には、ボールペンではなく万年筆

「万年筆で文字を書くときは、ボールペンで文字を書くときと違って、なぜか気持ちが引き締まるんですよね」。その時々の心理状態が文字に表れるという万年筆。

自分の成績にも大きく影響する契約という行為に対し、自らの襟を正すかのように万年筆を使い、契約書へ一字一句丁寧に文字を書き込んでいく。「営業にとって契約は重要課題。そして、一つ一つの契約が自分の評価の対象にもなります」。

契約書に文字を書き込む細野さんの手には、いつも万年筆が握られている。

誠意を込めた文字で、より良い人間関係を

契約書に使用する筆記具には万年筆がベストであると、細野さんは考えている。「仕事上のサービスはもちろん、その他に自分がお客様へ差し上げられるのは、誠意だけ。僕にとって、その一つが書くということなんです」。

文字に誠意を込めたことが伝わっているのか、お客様とのやり取りも今まで以上にスムーズ。細野さんにとって、万年筆は単なる筆記具を越えた気持ちを伝えるためのツールとなっている。更なる飛躍を続ける細野さん。そのカバンの中では、万年筆が出番を待ち続けている。

古来より日本文化に深くかかわってきた竹の魅力。その渋みのある落ち着いた味わいは、日本の伝統美の象徴ともいえる。この竹をモチーフに、書くことと、筆記具に魅せられたフランスの若きデザイナー、ジュリエット・ボナムールにより表現されている。


細野太郎さん

都内広告代理店に勤務する28歳。 “誠意を込めたサービス”をモットーに、関東圏全域を股にかけ、日々営業に励んでいる。

仕事中に携帯している持ち物

営業職だけあって、印鑑や書類、電卓、名刺入れなど契約時に必要なものが基本アイテム。細野さんの人柄を表すかのように、カバンの中身もクールでスマート。大きめの手帳には、スケジュールがビッシリと書き込まれている。

古来より日本文化に深くかかわってきた竹の魅力。その渋みのある落ちついた味わいは、日本の伝統美の象徴ともいえる。この竹をモチーフに、書くことと、筆記具に魅せられたフランスの若きデザイナー、ジュリエット・ボナム−ルにより表現されている。

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